juraian’s blog

東アジア史、ナショナリズム、反日言説に関する個人研究

日朝中から見た日朝中 (5) 『旧唐書』東夷伝

井上秀雄他訳注『東アジア民族史2』東洋文庫283,平凡社, 1976.

旧唐書』は後晋の劉昫の編纂により、945年(開運2年)に完成した。東夷伝には倭国伝と日本伝があるが、目新しい社会・風俗情報はないので省略した。

 

高 麗

 衣裳服飾、唯王五彩、以白羅為冠、白皮小帶。其冠及帶、咸以金飾。官之貴者、則青羅為冠、次以緋羅。插二鳥羽、及金銀為飾。衫筒袖、褲大口、白韋帶、黄韋履。國人衣褐戴弁。婦人首加巾幗。

 衣装や服飾では、王だけが五綵(青・黄・赤・白・黒の五色)を〔用い〕、白い羅で冠をつくり、白い皮の小さい帯〔を用いる〕。その冠および帯は、みな金で飾りつける。官〔位〕の高いものは、青(紫か)羅で冠をつくり、その下位の者は緋色の羅を用いる。〔その冠には〕二本の鳥の羽を挿し、金・銀で飾りつける。また上着は筒状の袖のあるもの、袴は大口、白いなめしがわの帯、黄色い革の履〔をそれぞれ用いる〕。庶民は粗衣を着て、〔頭には〕弁をつける。婦人は首に巾幗(くびかざり)をつける。(pp. 99-100)

 

 食用籩豆、簠簋、尊俎、罍洗、頗有箕子之遺風。

 食〔器〕には、籩豆(竹と木のたかつき)・簠簋(稷黍などを盛る祭器)・罇・俎・罍洗(大きい樽)を用い、箕子の遺風が盛んである。(p. 100)

 

 其所居必依山谷、皆以茅草葺舍。唯佛寺、神廟及王宮、官府乃用瓦。

 〔高句麗人の〕居所は必ず山や谷にあり、みな茅草で舎屋を葺く。ただ仏寺・神廟および王宮・官府だけは瓦を用いている。(p. 100)

 

 其俗貧窶者多。冬月皆作長坑、下燃;煴火以取暖。種田養蠶、略同中國。

 〔高句麗には〕貧しい者が多い。冬の月にはみな長坑を作り、下から火をたいて暖を取っている。種田(耕作)・養蚕はほぼ中国と同じである。(p. 100)

 

 其法、有謀反叛者、則集眾持火炬競燒灼之。燋爛備體、然後斬首。家悉籍沒。守城降敵、臨陣敗北、殺人行劫者、斬。盜物者、十二倍酬贓。殺牛馬者、沒身為奴婢。大體用法嚴峻。少有犯者、乃至路不拾遺。

 その法律では、謀反する者があれば、みな集まって炬火を持ち、〔先を〕争って〔その謀反者を〕焼き殺す。〔すっかり〕焦げ爛れさすが、体形だけは保ち、その後〔それを〕斬首する。〔謀反者の〕家人はすべて戸籍から外して〔奴婢とし〕、全財産を没収する。城を守る者が敵に降った場合や、戦争に臨んで敗北した場合、〔また〕殺人・強盗をした者は、〔いずれも〕斬殺する。物を盗んだ者は〔盗んだ物の〕十二倍を弁償させる。牛馬を殺した者は身分を落として奴婢とする。大体において法律の適用はひどく厳しい。〔だから〕犯罪者が少なく、路上に〔物が落ちていても〕拾わない。(pp. 100-101)

 

 其俗多淫祀、事靈星神、日神、可汗神、箕子神。國城東有大穴、名神隧。皆以十月、王自祭之。

 民間には淫祀が多く、霊星神・日神・可汗神・箕子神を祀る。国城の東に大穴があり、「神隧」という。十月に、王がみずからこれを祭る。(p. 101)

 

 俗愛書籍。至於衡門廝養之家、各於街衢造大屋、謂之扃堂。子弟未婚之前、晝夜于此讀書習射。一般に、書籍を愛読する。貧寒で賦役に就く家に至るまで、それぞれ街路に大きな小屋を造る。それを扃堂という。結婚前の子弟がここで昼夜読書したり、射術を習得したりする。(p. 101)

 

百 濟

 其用法、叛逆者死、籍沒其家。殺人者、以奴婢三贖罪。官人受財及盜者、三倍追贓、仍終身禁錮

 〔百済の〕法〔制〕では、反逆者は死刑で、その〔者の〕家〔族や財産〕は没収された。殺人〔を犯した〕者は奴婢〔を〕三人〔提供すること〕で〔その〕罪を贖う〔ことができた〕。官人で賄賂を受けたり、〔他人の物を〕盗んだりした者は、〔それらの額の〕三倍を徴収され、しかも終身禁錮となった。(p. 239)

 

 其王服大袖紫袍、青錦褲、烏羅冠、金花為飾、素皮帶、烏革履。官人盡緋為衣、銀花飾冠。庶人不得衣緋紫。

 〔百済〕王は袖の大きな紫〔色の〕袍を着て、青〔色の〕錦〔で作った〕袴をはき、烏(黒色の)羅〔で作った〕冠を金〔製の〕花で飾〔ったものをかぶ〕り、素(白色の)皮帯をしめ、烏の革履をはいていた。官人は、ほとんどが緋(赤色の)衣を着て、銀〔製の〕花で冠を飾った。庶民は緋や紫〔色の〕衣を着ることができなかった。(p. 240)

 

新 羅

 朝服尚白、好祠山神。八月望日、大宴齎官吏射。

 〔新羅では〕礼服は白色が尊ばれ、さかんに山神を祀っている。八月十五日に大いに宴をはり、官吏の弓術を競わせた。(p. 320)

 

 其建官、以親屬為上。其族名第一骨、第二骨以自別。兄弟女、姑、姨、從姉妹、皆聘為妻。王族為第一骨、妻亦其族。生子皆為第一骨。不娶第二骨女。雖娶、常為妾媵。

 新羅では官を設けるのに、〔王の〕一族を上位におく。〔新羅の〕王族には、第一骨と第二骨となずけ〔られたものがあり、彼らは〕その両者〔のいずれか〕に所属している。〔彼らの結婚では〕兄弟の娘・叔母・義姉妹・従姉妹などはみな妻として迎える〔ことができる〕。王族は第一骨で、その妻もまたその族(第一骨)である。〔第一骨の夫と妻の間に〕生まれた子は、すべて第一骨になる。〔第一骨の男は〕第二骨の女を娶らない。たとえ娶ったといっても、たんに侍女とみなした。(pp. 320-321)

 

 畜牧海中山、須食乃射。息谷米於人、償不滿、庸為奴婢。王姓金、貴人姓朴、民無氏有名。食用柳杯若銅瓦。元日相慶。是日拜日月神

 島の山で牛馬を飼い、食べたいと思えば〔これらの牛馬を〕射る。利子をとって穀物を人に貸し、その返済が約束どおりでないと、〔貸主は借り手を〕奴隷にする。王〔族の〕姓は金で、貴族の姓は朴であり、庶民には氏はなく、名だけである。食〔器〕には柳の桮(さかずき)や銅製や瓦製のものを用いる。正月元旦には互いに慶賀する。この日に、日神や月神を拝む。(p. 321)

 

 男子褐褲。婦長襦。見人必跪。則以手據地為恭。不粉黛、率美髮以繚首、以珠彩飾之。男子翦發鬻。冒以黑巾。市皆婦女貿販。冬則作灶堂中、夏以食置冰上。

 男子は粗末な袴を、婦人は長い下着を着る。人に会えば、必ず跪〔拝の礼〕をする。その跪拝の礼では、手を地につけて〔敬〕恭の意をあらわす。〔新羅の婦人は〕白粉や黛をつけず、美しい髪を首にめぐらし、〔その髪を〕珠〔玉〕や綵で飾る。男子は髪を切る。黒布の帽子を売っている。市〔場〕では婦人たちだけで品物を交換して商いをしている。冬になると竈を家の中に作り、夏には食物を氷の上におく。(pp. 321-322)