ハンギョレ紙上での論争
2019年9月、ハンギョレ新聞は『反日種族主義』に対する専門家の批判を三回にわたって掲載した。最初の批判者は経済史専攻の許粹烈忠南大教授で、日帝強占期には所得格差が広がり、成長の果実は日本人に集中し、朝鮮人の幸福度を全く上げなかったと言い張った。
許粹烈の整理によると、植民地近代化論の主張は①李朝末期の後進性、②植民地期の経済発展と生活水準の向上、③漢江の奇跡に対する植民地期の遺産の役割、の三つから成る。許粹烈は①には触れず、資本主義萌芽論については何も言わなかった。②については、在朝日本人と朝鮮人の間の所得格差が拡大したという当たり前のことを述べたが、朝鮮人の所得水準や格差には直接言及しなかった。代わりに植民地期に朝鮮人の平均身長が伸びたという朱益鍾の主張に噛みついた。そして육소영博士の研究を引用して、1918〜45年に朝鮮人一人当たり栄養供給量が減少したと主張した。当時の生活水準では所得が増加すれば真っ先に食料を買うはずだから、これは所得が増加しなかった証拠だとした。せっかく整理したのに、許粹烈は③についても何も述べなかった。
https://news.naver.com/main/read.nhn?mode=LSD&mid=sec&sid1=103&oid=028&aid=0002466087
식민지 근대화론은 ‘불편한 진실’ 아닌 ‘불편한 허구’다 [한겨레 2019.08.28]
https://japan.hani.co.kr/arti/culture/34241.html
[寄稿]「植民地近代化論」は“不都合な真実”でなく“不都合な虚構”だ [ハンギョレ新聞 2019-09-02]
二人目の批判者は日帝強制動員&平和研究会研究委員の정혜경(鄭恵瓊)で、朝鮮人労働者は強制的に動員されたのであり、賃金は日本人より格段に少なく、労働環境があまりに過酷だったため警察と戦闘までしたと主張した。
2015年7月にドイツで開かれたユネスコ世界遺産委員会で、佐藤地(さとう くに)駐ユネスコ日本大使は、1940年代に朝鮮人が「本人の意志に反して動員され、苛酷な条件下で強制的に労役した」と強制性を認めたが、鄭恵瓊によるとこれは日帝強制動員&平和研究会研究委の功績だそうである。李宇衍は、当時朝鮮人は日本臣民だったから法的差別とは言えないと主張したが、朝鮮人の権利は制限されていたのでこの主張は成り立たない。工場と炭鉱を管理する監督機関を設置して労務者を管理し逃走を防いだことも、強制性を裏づける事実である。李宇衍は朝鮮人が受け取った賃金が日本人より少なかったことを認めながら「正常に支払われた」と主張しているのは、わけがわからない。李宇衍は「当時、朝鮮人青年たちにとって日本は一つの『ロマン』だった」と言うが、そんなわけはない。動員に対する朝鮮人の拒否と抵抗は年々激しくなり、動員を嫌って逃亡する者は1943年には40%を超え、27人の青年が竹槍と鎌で警官隊と大立ち回りを演じた事件もあった。
https://news.naver.com/main/read.nhn?mode=LSD&mid=sec&sid1=103&oid=028&aid=0002466649
강제동원 아닌 취업? 조선인 ‘도망자’ 40%는 왜 나왔나 [한겨레 2019-09-02]
https://japan.hani.co.kr/arti/culture/34250.html
[寄稿]強制動員ではなく就職?朝鮮人“逃亡者”40%はなぜ [ハンギョレ 2019-09-02]
三人目の批判者は慰安婦問題研究所調査チーム長の尹明淑で、銃剣で脅さなくても強制には変わりなく、日本は植民地朝鮮で公娼制と紹介業産業体制を慰安婦強制動員に利用したと主張した。李栄薫は日本軍慰安婦を非難する前に韓国独立後の米軍慰安婦や韓国軍特殊慰安隊に注目しろというが、これは順序の問題ではない。ビルマの慰安所にいた慰安婦が大金を稼いだという主張は、ビルマのハイパーインフレを考慮していない詭弁だ。李栄薫は韓国で慰安婦と挺身隊が混同されてきたことを強く批判し、女子挺身勤労令は朝鮮では有効に実施されず、日本に渡った朝鮮女性は2000人程度だったとする。主張の一部は妥当だが、一部は誤りで、一部はまだ分からない。李栄薫は映画『鬼郷』や小説『アリラン』で日本軍人が銃剣で脅しつけて娘たちを引っ張って行く場面を猛非難している。しかし強制とは「本人の意思に反すること」を言うのであって、軍人が髪の毛を引っ張っていったかどうかが重要なのではない。
https://news.naver.com/main/read.nhn?mode=LSD&mid=sec&sid1=103&oid=028&aid=0002467089
돈벌이 좋은 개인 영업자라니…일본군 위안소 제도 만들고 소녀들 짓밟은 건 누구인가 [한겨레 2019-09-05]
https://japan.hani.co.kr/arti/international/34291.html
[寄稿]稼ぎのいい個人営業者だとは…日本軍慰安所制度作り少女を踏みつけたのは誰か [ハンギョレ新聞 2019-09-06]
李宇衍は二人目の鄭恵瓊の批判に対する反論をハンギョレ新聞に送り付け、掲載された。鄭恵瓊は「ロマンなのになぜ脱出」したのかと書いたが、これは単純化し過ぎで、日本にはロマンも地獄もあった。朝鮮人は日本に働きに行きたがったが、炭鉱や鉱山は忌避した。逃亡した朝鮮人は帰国せず、より条件が良い所に就職した。慶山郡の「集団抵抗」も、日本へ行くこと自体に対する拒否ではなかった。鄭恵瓊は筆者が徴用を含めて「強制動員」を否定したと言うが、筆者は「徴用は法律が規定する、まさに強制的な動員方法」であると明記した。鄭恵瓊は朝鮮人が受け取った賃金が日本人より少なかったから民族差別だと主張するが、朝鮮人の賃金が少なかったのは単身者が多く、超過勤務が少なかったからに過ぎない。鄭恵瓊は「逃走者を捕えてリンチを加え命まで奪った」と言うが、苦労して調達した労働力をポイ捨てするような余裕は日本にはなかった。
https://news.naver.com/main/read.nhn?mode=LSD&mid=sec&sid1=110&oid=028&aid=0002468119
[왜냐면] ‘반일 종족주의’ 반박 기고에 대한 저자의 반론 / 이우연 [한겨레 2019-09-16]
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/34432.html
[寄稿]『反日種族主義』反論寄稿に対する著者の反論 [ハンギョレ新聞 2019-09-23]
ハンギョレ新聞は、ソウル大国史学科博士課程を出た収奪論者の鳥海豊博士にインタビューした。鳥海は『反日種族主義』の著者らの勇気を賞賛し、この本のお陰で自分の論文も注目されるようになったので「あまり争いたくない」と笑った。しかし朝鮮人は実際に貧しくなったのであり、収奪はあったと植民地近代化論に反対した。植民地朝鮮における構造的収奪としては、朝鮮人に低金利の貸出をしなかった金融制度と、在朝日本人の暴力を積極的に取り締まらなかった警察官の態度をあげた。
https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/911267.html
‘반일 종족주의’ 비판 일본 학자 “조선인이 그렇게 가난해졌는데 수탈·착취 없었다니” [한겨레 2019-10-19]
https://japan.hani.co.kr/arti/politics/34513.html
『反日種族主義』批判の日本人学者「朝鮮人が貧しくなったのに収奪・搾取なかった?」 [ハンギョレ新聞 2019-10-01]

引用文献
이영훈외『반일 종족주의 —— 대한민국 위기의 근원』미래사,2019(李栄薫編著『反日種族主義——日韓危機の根源』文藝春秋,2019)