もし日本が中国に戦勝していたら——第一章
「如果日本战胜了中国」の「复杂的感情(複雑な感情)」の中で趙無眠は、日中戦争は「羽量级对重量级的拳击大战(フェザー級対ヘビー級の対戦)」で、「难以獨立打赢的一场战争(単独で勝つのは難しい戦争)」だったと認めている。中国人は日本が降伏した原因を中国の古人名になぞらえて、一に屈原(原爆に屈したこと)、二に苏武(ソ連が侵攻したこと)、三に共工(共産党の戦果)、四に蒋干(国民党の戦果)とうまいことを言って喜んでいる。しかし実際には八路軍も国府軍も大した戦果はあげておらず、日本は連合軍に降伏したのであって中国に負けたのではない。
趙無眠は旧日本軍の実力をやけに高く評価しており、連合国側も日本の再軍備を警戒していたとする。しかし「德国战败后,西方各国尚允许它重建武装部队。而日本,被占领军下令解散皇军,永远不得再建军队(戦後ドイツは西洋諸国から再武装を許可されたが、日本は占領下で皇軍は解散させられ、永遠に再軍備できずにいる)」と書いたのは行き過ぎで、現在の日本とドイツの軍事力は大して変わらない。
趙無眠は中国が日本から賠償金を取ることを「以徳報怨」だなどと恩着せがましく強調しているが、実際には蒋介石は賠償金を取る気満々だった。連合軍の方針と冷戦の開始で諦めざるを得なかっただけで、中国が自発的に「以徳報怨」する聖人君子だったわけではない。また戦後の日独の状況について「国土被分割,巨额的战争赔款(国土は分割され、巨額な賠償金を請求され)……」とまるで中国以外の連合国に賠償したかのように書いているが、日本が賠償したのはフィリピン、ビルマ、インドネシアなどに対してだけで、対戦相手には賠償していない。
「侵略战争的另一面(侵略戦争のもう一つの顔)」の節で趙無眠は、アフリカが独立できたのはドイツのおかげ、東南アジア諸国が独立できたのは日本のおかげだとしている。ついでに北京・上海・広州等の外国人疎開が一掃されたのも日本のおかげで、日露戦争でロシアが勝っていたら満洲はロシア領になり中国に戻って来なかっただろうとしている。そもそも中国は古代から異民族の侵略を受け続けてきたが、今日のように広大な版図を有するに至ったのは外部から侵略されたおかげだとしている。ただし満洲や内蒙古は確かに満洲族が侵略してきた後に漢化したおかげで手に入った領土だが、チベットやウイグルは清代の侵略戦争で手に入れた領土なので、趙無眠の命題はそのままでは当てはまらない。
ともあれ「中国を侵略した者は中国人になってしまう」というのが趙無眠の基本テーゼだが、確かに中華文明には4〜5世紀の五胡(匈奴・鮮卑・羯・氐・羌)や清代の満洲族を漢化して中国人にしてしまった実績がある。元代の蒙古族だけは、90年ほど中国を支配して漢化する間もなく草原に帰って行った。「もし日本が中国に戦勝していたら」への解答も「日本成为中國的一部分,还要加上朝鲜(日本は中国の一部となり、朝鮮も付録で付いてきただろう)」というものである。

引用文献
趙無眠(富坂聡訳)『もし、日本が中国に勝っていたら』文春新書,2007.